「今日はどうしますか?は、美容師として逃げだと思うんです」南魚沼の人気美容室【ルピアス】オーナーにインタビュー
新潟県南魚沼市塩沢、美容室『ルピアス』のオーナー八木啓佑(やぎけいすけ)。
彼の実家は四代続く町の床屋さん。両親ともに理容師という環境で育つ中で、美容師としての道を選ぶ(理容師免許も取得)。
平均睡眠時間3時間という神奈川県での厳しい修行時代を経て2013年に南魚沼に帰ってきた。
高校時代の同級生、幸子夫人とお店を立ち上げて5年。二人のスタッフを抱える若きオーナー。
2018年、38歳になる年を向え「美容師」としての仕事や、自分自身のあり方について問い直すことが増えたと語る。
一見、順風満帆に見える彼の人生だが、日々どんな想いでハサミを握っているのか訊いた。
この記事のもくじ
目の奥の想いをくみとる
ーー高校を卒業してから、ここまで美容師一本で進んできたと思うのですが、最近心境に変化があったとお聞きしました。どのような変化があったのでしょうか?
八木 いままではかなり技術色の強い美容師スタイルを貫いてきたのですが、最近少し変わってきました。
「僕がデザインしたモノが売りものだ」とずっと考えていたのですが、そうじゃないんじゃないかって。
もちろん、それだけで喜んでいただけることもあるのですが、お客様と一緒にひとつのデザインをつくりあげていくことの方が大切なんじゃないかと気づきました。
ーーそう思ったきっかけのようなものはありましたか?
八木 はい。先輩の美容師の方々とお話をさせていただく機会があったのですが、やはりみなさんひとりひとりに美容師としての哲学があり、その哲学に基づきお客様と真摯に向き合っているんですよね。
そういったはなしを聞いていてドキッ!としました。自分はちゃんと向き合えてるかって。
いままで通りのやり方でいいのかと。
それから、「お客様の目の奥の想い」をくみとるためにはどうしたらいいのか……を毎日考えるようになりました。
本当にここ最近なんですけどね。きっかけをくれた先輩に感謝しています。
デザインソースは「〇〇」
ーー美容室のオーナーとして毎日忙しい日々をお過ごしのことと思いますが、お休みの日はなにをしていることが多いですか?
八木 僕は現実逃避が好きなんです。そのなかでも一番、遠くに連れていってくれるのが映画。
映画って気軽にいろいろなところに行けるじゃないですか?多い時には一日に二本みることもあります。
ーーいまはなんでもインターネットからみられますもんね
いや、僕はいまも「TSUTAYA」派なんです(笑)。ちゃんとレンタルしにいってますよ。
ーーオススメの作品は?
ちょっとむかしの作品なんですけど「ジョーブラックをよろしく(1998)」は何回もみてます。
人間の姿をした死神(若いころのブラットピット)が、人間の女性と恋におちるラブストーリーなのですが、あの世界観が気に入ってます。
なんの映画をみてもそうなのですが、職業病なのかやっぱりヘアスタイルやメイクにどうしても目がいっちゃいますけどね。
いままで見てきたすべての映画が、僕のデザインソースになっていることは間違いありません。
八木啓佑、ハリウッド進出?
ーーこれ、とっても聞いてみたい質問だったのですが。八木さんは美容師になっていなかったら、どんな仕事についていたと思いますか?
八木 難しい質問だな~。
ウチは両親が共働きで忙しかったから、家族で出かけられることが少なかったんですよね。
そういうこともあって、映画をみて過ごすことが多かったんです。
だから美容師になりたいな~と思う前は「映画に関わるような仕事」ができたら、という思いはありました。
役者さんや監督はなかなか厳しそうだから、やっぱりヘアセットやメイクで携わるのが夢でした。
ーーまだ、機会があるかもしれませんね?
八木 たしかに。いつかチャレンジする機会があるといいですね。
これからの時代にスターはいらない理由
ーーいま現在ふたりのスタッフさんがいらっしゃいますが、スタッフを育てる時に気を付けていることはありますか?
八木 スタッフ教育に「マニュアル」はないというのが僕の考えです。やはりひとりひとり、性格や得意なことも違うわけですし。
おのずと育て方も変わってくると思うんですよね。ひとりひとり得意なことが違うし、役割があるので。
僕を含めスタッフみんなで一緒にお店を育てていくなかで、スタッフも育っていく……というのが僕の考えです。
ーー確かに。ルピアスさんのスタッフはいつもいきいきしているイメージがありますよね。
八木 ありがとうございます、それはよかった。
もうひとつ僕の考えがあって、いまの時代って「スターはいらない」と思うんですよ。お店にひとりスターみたいな人がいて、そのスターの力でお店が盛り上がるような時代は終わったんじゃないかと。
そうではなくてオーナーからスタッフまで協力しあって、お店を発展させていくことに意味があるんだと思います。
僕もまだまだ発展途上中なので、スタッフと一緒に成長していきたいですね。
八木啓佑に会いたいから…
ーーこれからの美容室に求められるものはなんだとお考えですか?
八木 いままでのやり方だと美容の価値が下がってしまわないか心配しています。
一度、その美容室に通い出したらずっと通わないといけない…みたいなことって暗黙の了解的にあるじゃないですか??
あれってよくないな~と思うんです。
居酒屋さんやレストランって、ぜんぜん違うじゃないですか??
今日はイタリアンが食べたいな~と思ったらイタリア料理屋さんに行くし、中華が食べたいな~と思ったら中華屋さんにいきますよね。
美容室もそんな感じになっていくとおもしろいんじゃないかと思うんです。
「今日は啓佑に会いたいからルピアスに行こう!」みたいな感じに。
ある意味そういう緊張感が美容師を成長させることにも繋がってくるとも思うんです。永遠に通ってきてくれるのが当たり前と思って甘えていたら、いつかは消えてしまうのではないでしょうか?
ーーなるほど。それでは、これからの「美容師」に必要なものとはなんでしょうか?
八木 僕もまだついつい言ってしまうのですが「今日はどうしますか?」は美容師として逃げだと思うんです。
求められている技術を提供するのは、もはやプロとしては当たり前。
それ以上のモノを提案できる人がプロフェッショナルなんだと思います。
日々変わっていくことを恐れず、時代に合わせて変化していけることも大切なのではないでしょうか?
でも、そんななかでも「芯」だけはしっかりと保たなければいけないと思います。
ーー八木さんにとってその芯とはなんですか?
八木 自分の納得できるスタイルをお客様に提供すること、ですかね。
あと、これはオフレコでお願いしたいんですが……単純に美容師という仕事ってカッコイイと思うんです(笑)。
そう思うでしょ!?(同席していたスタッフのすみれさんに問いかけ、すみれさん頷く)。
自分の知識力がなければ、お客様に喜んでもらうことはできないと思うんですよね。そんなこともありプライベートを充実させることも大切にしていますし、スタッフにもいろんな経験をするように常日頃から伝えています。
お客様から「逃げない美容師」になるために
ーーそれでは最後に、美容師を目指す若いひとたちにメッセージをお願いします。
八木 ちょっと前までは人気の職業ランキングTOP10に「美容師」が入っていたけど、そういうこともなくなってしまいました。
これからの時代、美容室だけじゃないですけど、どんな仕事もAI化(人工知能)が進み人の手がいらなくなってくることが予想されます。
そんななか美容師という仕事を選び極めていくのは、なかなか大変になると僕は考えています。
でも、こんな時代だからこそ『自分の手でオリジナルを提供できる』のが美容師の魅力なんだと思います。
「あの人に切ってもらいたい」
「あの人に切ってもらうと元気がもらえる」
そんな風にお客様に思ってもらえる美容師を目指して欲しいですね。
それにはカットなどのテクニックだけではなく「人間力」を磨くことも大切です。
自分の技術に責任をもって、お客様から逃げない美容師が増えていくと美容界の未来は明るいのではないでしょうか。
取材後記
言うまでもなく、カット前に顔を分析し、骨格を知り、骨の高さを研究することで、どの角度から見ても盲点がないカットを徹底するんだよ。
ヘアカットはお客をイスに座らせてチョキチョキすることじゃない。その人の骨格を研究することなんだ
ヴィダルサスーン
美の巨匠ヴィダルサスーンが語ったこの言葉。
奇しくも今回のインタビューの中で彼も同じようなことを話していた。
大袈裟かもしれないが、彼が日本のヴィダルサスーンになる日はそう遠くないのかもしれない。
いまのうちにサインをもらっておこう(笑)。
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