なぜクマは里に下りてきたのか?生態を知って被害を減らすためにできること
すっかりクマ博士、ジンボラボ 神保貴雄です。
私が住む新潟県南魚沼市は日本でも屈指の豪雪地帯です。
雪がたくさん降る……ということは近くに大きな山があるということ。
山があるということは……クマなどの野生動物に遭遇する確率が上がるし、被害に遭うことも想定されます。
実際、僕自身も近くの里山で「カモシカ」や「サル」などに遭遇した経験が。
な、なんと最近、野生のクマを見ちゃいました。
車に乗っていて何気に山をみると、そこにクマが。
30mくらい先だったので、かなり鮮明に確認することができました。
一瞬で通り過ぎたので被害などはありませんでしたが、やっぱり実物はオーラがありましたね。笑
やっぱりこれはただごとじゃないんだっ!!
クマ駆除数310頭 18年度の3倍 人身被害があった県内8市町
本年度、野生のツキノワグマによる人身被害があった新潟県内8市町で駆除したクマは計310頭に上り、計91頭だった2018年度1年間の駆除頭数の3倍以上になっていることが5日、新潟日報社の調べで分かった。クマによる人身被害が多発する中、駆除頭数も急増。中山間地などではクマが冬眠期に入るまで緊迫した状況が続く可能性があり、関係者は注意を呼び掛けている。
https://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20191106505660.html
なぜ今年(2019)こんなにクマが出没し、被害が増加しているのか……。
よく「クマの食料が不作になって、里に食糧を求めて下りてくる」なんてことを言いますが、本当のところはどうなんでしょうか?
まったく野生動物の知識はないのですが、自分なりにいろいろと調べてみました。
この記事のもくじ
日本列島におけるクマの分布図(緑色のポイント)
日本にはヒグマとツキノワグマが生息しています。ヒグマは北海道に、ツキノワグマは本州と四国の山地 を生息地としています。昔は九州にもツキノワグマが生息していましたが、50 年ほど前から生息は確認され ていません。
ヒグマ :北海道の約半分の地域に生息しています。森林を主な生息地としますが、木の少ない原野にも出てくることがあります。
ツキノワグマ:落葉広葉樹林のあるところを主な生息地としています。東北地方や中部地方では 6 割以上 の地域に関東、近畿、中国地方では 3 割程度の地域に、四国は限られた地域にだけ生息しています。
https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/kids/full.pdf
まずは「日本列島におけるクマの分布」をおさらいしていきましょう。
ヒグマが北海道にしかいない……ということはなんとなくわかってました。
驚きだったのが、ツキノワグマが四国にいるのに、九州にはいないこと!!
新潟県民からすると「めんたいこ」とか「とんこつラーメン」を抜きにしても羨ましい限りです。笑
クマの好きな食べ物はドングリとブナの実
ツキノワグマの食物の 9 割以上は植物です。春には、芽吹いたブナの葉やさまざま植物を食べます。夏はアリやハチなどの昆虫を多く食べます。秋になると、ドングリなど木の実をたくさん食べるようになります。
https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/kids/full.pdf
食べ物の9割以上が植物とは!?
なかでも秋のドングリには目がないようです。
「ドングリまなこ」って言いますからね。笑
このように、ここ20~30年でクマは増えてきたのだが、クマ出没のニュースを多く目にする年と、それほど目にしない年がある。中部・北陸地方を中心としたクマの大量出没が話題となった2004年には、「東北地方では、秋のブナの豊凶とクマの出没に相関がある」という興味深い研究結果がリリースされた。
ブナの秋の結実は多い年(豊作)と少ない年(凶作)があり、数年に一度豊作が訪れる一方で、豊作の翌年にはほぼ必ず凶作になることが経験的にわかっている。そしてクマは、このブナの豊作年はあまり人里に現れず、翌年の凶作の時には春先から山を下りてくるのだ。
ブナの木になるブナの実も大好物なんだそうです。
で、こちらの文章にあります通り「ブナの実」が凶作の年にクマはこぞって里に下りてくる……という研究結果が出されています。
こちらがブナの実。
はじめて見ましたが、こんなに小さいんですね。
ドングリもそうですが、こんな小さな実をクマが食べているところを想像すると、ちょっとかわいい。
とは言え、クマがあの巨体でブナの実をお腹いっぱい食べるには相当の量が必要になることが予想されます。
マスティングから考えるクマの動き
先ほども言ったように、山の動物たちの貴重な食料にもなるのですが、ブナが豊作だと、野ネズミが大繁殖すると言われているんです!
そんな大繁殖した動物たちに、実を全部食べられないようにするために定期的な豊凶の年があります。
この現象のことを“マスティング”と言います。
ただ、定期的と言っても規則的なものではないんですけどね。
次の豊作は、5年後、もしくは7年後、8年後、10年後かも知れない。
なので、豊作の年に爆発的に繁殖した動物たちは食糧難で苦しむと言われています。
豊作の年は山にたくさんブナの実があるので、里山に下りてくる必要がありません。
反対に凶作の年にはブナの実がありませんので、食糧を求め行動範囲を広げる……というのは納得がいくところです。
ただ、ブナの豊凶は規則的なことではないので、予測するのは難しいようです。
でも知識としてインプットしておいて、損はなさそう。
それともうひとつ、野生動物が里に下りてくる原因となったことがあります。
人類としてはこちらの問題をなんとかすべきだと僕は考えます。
人とクマの間に存在する里山の境界線としての役割
里山は、戦前、薪炭林として利用されるなど常に人手が入り、奥山と人里の緩衝帯としての役割を果たし、サルやクマが人里に近づくのを防いできましたが、戦後は薪炭の需要がなくなり放置されました。一部は、カラマツやスギなどの造林地に変わりましたが、昭和40年代に入り、外国から安い木材が輸入されると多くが放置されました。山菜やキノコの時期を除けば山に人が入らなくなり、里山の緩衝帯としての機能は失われました。さらに、狩猟をする人が減ったため動物が危険を感じる機会も少なくなり、サルやクマが奥山と人里を簡単、かつ、安全に行き来できるようになったと考えられます。
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/minamiuonuma_kenkou/120716sarukuma1.html
なるほど〜確かに!
その証拠となる写真が手元にありました。
こちらの写真は僕が住む南魚沼市六日町にある「坂戸山(さかどやま)」という里山の写真です。
手前が「一本杉」と呼ばれるシンボル的な巨木となっています。
写真の奥を見ていただけるとわかるのですが、木というか草さえ生えておらず山肌が丸見え状態。
聞けばやはり山に生えている木を薪にするために伐採していたそうです。
山が丸ハゲ状態であれば、クマが食糧を求めて里に下りてくることもないですからね。
身を隠すところもないし。
丸ハゲの里山が人間の住むところと、野生動物が住むところの境界線の役割を果たしていたとは……。
ちなみにこちらがいまの「一本杉」ですね。
わかりづらいですが、さきほどの写真と違ってまわりにはたくさん木が生えています。
以上のことを踏まえて考察してみる
まずはクマの食料事情について。
これはさきほど「マスティング」で説明した通り、自然のなせる技なので、人類にはどうすることもできません。
ただ言えるのは、ブナの実については「豊作の次の年は必ず凶作」になるようです。
このあたりを頭に入れておくといいでしょう。
次は「里山問題」についてですね。
これについては間伐材の問題とも絡んできますよね。
昭和40年代に入り、外国から安い木材が輸入されると多くが放置されました。
山菜やキノコの時期を除けば山に人が入らなくなり、里山の緩衝帯としての機能は失われました。
エネルギーとしての木材利用をもう一度考えなくてはいけないタイミングなのではないでしょうか。
いまいちど、このイラストを引用させていただきますが、見たらわかる通り人家に近い里山の整備は急務。
クマが出没するところって大体決まっていますので、そのあたりを中心に里山を間伐して境界線をつくる。
で、その間伐材をいま注目を集めている「ペレット」などの燃料にできれば一石二鳥ではないでしょうか。
なぜクマは里に下りてきたのか?生態を知って被害を減らすためにできること まとめ
今回のことで、クマについてはじめて真剣に考えてみました。
30年くらい前のことですが、実は私の家の裏にもクマが出没して負傷者が出たことがありました。
他人事じゃないです。
この記事を参考にしていただいて、いつ現れるかわからないクマに対して少しでも知識を付けて備えていただければと思います。